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頭の中に浮かんだことを勢いにまかせてすごく適当に書く。

危険な仕事と家族、あるいはカルト宗教を追う夫とその帰りを待つ妻について

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前回のエントリを書いている最中に思ったことがありました。そのときは面倒くさくて書かなかったんですが、時間ができたのでメモ代わりにブログに書いておこうと思います。

「カルト宗教」取材したらこうだった (宝島SUGOI文庫)

「カルト宗教」取材したらこうだった (宝島SUGOI文庫)


何を思ったのかというと、仕事と仕事がもたらす危険についてです。

よけいなお世話なのかもしれませんが、この本には著者のあまりの緊張感のなさに心配になってしまうエピソードがいくつか出てきます。

たとえばこれ。
ベストグループという団体から抗議され、教祖と直接対決をすることになった著者とY弁護士。相手が金粉を降らせたり、手をかざしただけで病気を治す力を持っていると知り、対策を立てます。

東急ハンズでいいものを買ってきました」
私が取り出したのは、マギー審司の手品で人気だった、ゴム製の大きくなる耳と大きな親指。
(中略)
「敵が金粉を降らせたら、こっちは耳と指を巨大化させる超能力で対抗すればいいんです。大丈夫、勝てます!」
準備は全て整った。Y弁護士は大きな耳を隠し持ち、私は大きな指を隠し持って、会談に挑んだ。
p.157-158

相手を相当おちょくるつもりでなければ、こんな仕込みはできないと思います。「カルト宗教=オウム=洗脳・犯罪」という図式が頭の中にある俺には、到底無理です。もちろん、カルト宗教を長年追いかけている著者だからこそできる芸当なのかもしれませんが。

俺だけでなく、多くの人はカルト宗教に対して「敵視されたら問答無用で即ポアされる」というイメージを持っているのではないでしょうか。実際、本書の中でも以下のようなエピソードが出てきます。

とある雑誌のインタビューのために、ひかりの輪の広報担当者へ会いに行くことになった著者。取材に向かう道中、著者は同行した担当編集者にこんな話をします。

「オウムって、むかし滝本太郎弁護士との話し合いの席で、飲み物にボツリヌス菌盛ったらしいっすよ。それで、去年、滝本弁護士がひかりの輪の広報担当の広末さんを名指しして、“彼は私にボツリヌス菌を飲ませるために旅館を予約した人物”と発言した。(以下略)」
この日のインタビューについて連絡窓口になってくれたのも、ひかりの輪の広報担当(現在副代表)の広末晃敏氏だった。
p.96

この話を聞いた担当編集者は緊張してしまい、インタビュー中は一切飲み物に手を付けなかったとのこと。著者は出された飲み物をガブガブ飲んだそうですが、それは例外で、たいていの人のリアクションは担当編集者と同じでしょう。

この本の著者にかぎらず、カルト宗教を長年追い続けているジャーナリストって本当にすごいと思います。
本書を読んだ後でも、彼らが何をしてくるかわからない恐ろしい連中であるというイメージを私はぬぐえません。そういった連中を取材し、ときに彼らのウソや悪事を報道するということは、逆恨みや報復をされるかもしれないということです。現に、著者はカルト宗教団体から抗議や訴訟を起こされています。幸い、まだオウムのようなヤバい連中からは逆恨みを買ってなさそうですが、最悪の場合、坂本弁護士一家のようなことにもなりかねません。
そう考えると、カルト宗教を取材対象として追いかけ続けるというのは、並大抵のことではないと思います。

家族の理解も欠かせないでしょう。
私事ですが、わが家はマンションの1階にあり、毎夜、上の階の住人の足音に悩まされています。深夜の1時、2時までドタドタと走り回る音がするので、何度か怒鳴り込もうとしたり、ほうきの柄で天井を叩いたりして警告しようとするのですが、その度に妻が「逆恨みや仕返しをされるかもしれないからやめて」と言い、泣き寝入りしています。

程度は違うでしょうが、カルト宗教を追いかけ続けるというのはこういうことなのかなと勝手に思っています。そしてそれは、妻の心情も。そういう意味で、カルト宗教を追い続ける夫を持つ、著者の奥さんがどう思っているのか聞いてみたくなりました。毎日、夫が無事に帰ってくることを心配しているのか、それとも正義のために夫の活躍を喜んでいるのか。欲を言えば、文庫版あとがきとかでそのあたりに触れてほしかったです。